トルコ・イスタンブールで5月16日に開催されたロシア・ウクライナの約3年ぶりの直接協議の場に、開催を呼びかけたはずのロシアのプーチン大統領が姿を現すことはなかった。代わりにロシア代表団を率いたのはウラジーミル・メジンスキー大統領補佐官だ。
文化相としてロシアの戦争遂行を支える文化政策を指揮した同氏は、その穏やかな物腰とは裏腹に、ウクライナとの協議では「そちらに座っている何人かは、さらに愛する人を失うだろう。ロシアは永遠に戦うことができる」などと恫喝してみせた。ウクライナに強硬姿勢を示しつつ、もとより協議など行う考えなどないことを見せる人物として、役職の低いメジンスキー氏を代表に据えたのは、ロシアからすれば〝妥当〟な人選だった。
プーチン氏が直接協議を呼びかけたのは、ロシアが交渉する姿勢があると仲介に前のめりだった米国のトランプ大統領を引き込み、その足元を揺さぶる狙いがあった。プーチン氏は、2015年のロシア・ウクライナ停戦合意「ミンスク2」のように、ロシアが圧倒的に優位な形で決着できる交渉以外に姿を現すことはない。ロシアに停戦協議を行う意図はなく、6月2日に予定される再交渉も、目立った成果を生むとは予想されていない。
ロシアは苛烈な攻撃を続けながら、ウクライナを屈服させようとしている。
ロシアが協議を主導?
「ロシアは、協議を主導したものとして、この結果に満足している」
「我々はウクライナ側と、1000人ずつの捕虜交換を行う。ウクライナ側は首脳会談を要請し、われわれは検討する。双方は停戦に向けた構想を提示する。ロシア側は、ウクライナ側との協議を継続する用意がある。以上だ」
報道陣の前でメジンスキー氏は、そう言って会見を締めくくった。「協議を主導したものとして」との言葉は、自国民や占領地域の住民に対し「ロシアが停戦を持ち掛けた」との印象を植え付ける狙いがうかがえる。ただその内容は乏しく、捕虜交換以外は実質的にゼロ回答に等しい。